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淡雪 8~最終話

2006-11-12 Sun 17:07
それからは週に一回、公園で他愛のない話をした。
たまにばあやも一緒に来ることもあった。
名前は"お妙"さんというらしい。
話の内容は些細なこと。
家の事、学校の事、友達の事。
いつも政太郎ばかりが話しているような気もしていた。
「ごめんなさい…いつも僕ばかり話しているように思うのですが…」
「いいえ。全然。とっても楽しいです。私…あまり外に出たことがないので…外の出来事がどんな些細なものでも面白いんです」
ならいいがといつもこんなやりとりをしていた。
ただある日のこと。
「もしかしたら…もうすぐ来れなくなるかも知れません」
「えっ…どうしたんですか?いきなり」
突然の言葉に驚く。
「いえ…ただなんとなくなんですけど」
この次の週だった。
「政太郎様!!」
今までに聴いたことのないような声でお妙に呼ばれた。
「どうしたんですか!?お妙さんがこんなに慌てるなんて…」
「お嬢様が…尚子お嬢様が!」
尚子さんがどうしたんだ!?
「あの…まず落ち着いて下さい。尚子さんになにがあったんですか?」
お妙のようすで嫌が応にもわかる。
-ただ事ではない-
「兎に角…屋敷へ…お嬢様に会って下さいまし」
そうお妙にうながされ、政太郎は尚子の屋敷へ急いだ。



屋敷に着き尚子の部屋へ通された。
政太郎は愕然とした。
ベッドに横たわる尚子は先週会った時よりもはるかに痩せ、息もたえだえだった。
「君が政太郎君かな」
いきなり後ろから声をかけられた。
「はい…」
「尚子からよく聞いているよ。よかったら声をかけてやってくれないかな…」
悲しそうな顔と声で話す彼女の父の横で一人の女性が泣いていた。
この人が母親なんだろう…
「尚子さんはどこか悪いのですか?」
流行り病なのだろうか、それとも昔から大病を患っているのだろうか
「産まれた時から体の弱い子でね…10才まで生きられないと言われていたのだが、今や16才…医者も驚いていたのに…」
堪えていたものが溢れたのか…父親も泣き出してしまった。
政太郎は両親に一礼して、尚子の側へ行った。
「尚子さん…僕です。政太郎です。わかりますか?」
声をかけると閉じていた尚子の瞼がうっすらと開いた。
「せい…太郎…さん?」
途切れ途切れに名前を呼ぶ。
「はい。政太郎です。お見舞いに来ました」
「…ありがとう…ごめん…なさい…ね…こんな…みっともない格好で…」
「いえ、全然。いつもと何もかわりませんよ」
詰まるものを必死で抑え、平静を装う。
暫く沈黙が続いた。
「あのね…政太郎さん…」
尚子が口を開いた。
「はい、なんですか?」
「私…あなたに伝えたいことが…あるの…聞いて頂けるでしょうか…」
「勿論です」
尚子が微笑む。
「私…痛かったけれど…あの日…転んでよかった…」
「はい」
「悲しかったけれど…日傘が折れて…良かった…」
尚子と政太郎二人の目に涙が溢れてきた。
「あなたが…帰ろうとしたとき…思いきって声をかけて…良かった…」
「…っ…はい」
政太郎の目から涙が溢れた。
「あなたと出会えて…良かった…」
「僕も…あなたに出会えて良かった…あなたと話している時間は…とても幸せでした…」
もう涙を抑えることが出来ない。
彼女は今日、死んでしまう。
「そう言って頂けるなんて…嬉しい…」
政太郎はもう声をかけることができなかった。
おえつが漏れ言葉が声にならない。
「泣かないで…政太郎さんも…お父様も…お母様も…ばあやも…私…短い生涯だったけれど…幸せでした…」
皆言葉がかえせなかった。
「政太郎…さん…私…あなたの…ことが…………」
「尚子…さん…?」
握っていた手から力が抜けた。
「尚子さん!!尚子さん!!続きは?僕のことがなんですか!!続きを教えて下さい!!目を開けて下さい!!」
どんなに叫んでも尚子には届かない。
頭の片隅では理解していた。
それでも政太郎は尚子を呼び続けたが
「政太郎君…もう…もういい」
父親にそう言われ、肩に手を置かれた。
その瞬間政太郎はその場に崩れ、その後をただ見ていることしかできなかった。
後日執り行われた葬式には有名な旧家ということもあり多くの人が参列した。
政太郎は家まで行ったものの、中に入ることができなかった。
尚子がもういないということを認めたくなかったのだ。



尚子がこの世を去りどれくらいが経っただろうか。
政太郎は25になり、翌日には結婚を控えていた。
そんな日の夜のこと、それまで一度も見なかった尚子の夢をみた。
「政太郎さん」
真っ白い光の中に尚子がいた。
「尚子…さん?」
「ふふ。そんな顔しないで?あの日言いかけた言葉を言いにきましたの。」
尚子は光の中で昔となにひとつ変わらない笑顔で政太郎を見つめていた。
「私…あなたのことが好きでした」
政太郎はただ黙って聞いていた。
「それでね…神様が私の願いを聞いて下さったの。いつになるかはわからないけど…私、政太郎さんの側へ行けることになったの」
とても嬉しそうに尚子が話す。
「政太郎さんなら絶対わかるって私信じています。だから、奥様になられる方といつまでも幸せでいて下さいね?でないと、私あなたの側に行けないもの」
尚子の言葉に「わかった」と答えた瞬間に目が醒めた。
どうやら泣いていたようだ。
ふと外が気になりカーテンを開けた。
雪が降っていた。道理で今夜は冷えるわけだと考ながら、尚子が他界した日を思い出した。
「そういえば尚子さんがなくなったひの朝も雪が降っていたよな……」
淡く…そして儚い雪のような…実らなかった恋。
「いつの日かあなたにまた会えると信じて僕は幸せになります」
外の雪を見ながら尚子に誓った。
――「可哀想な人だったんだね…」
「そうだな」
日はすっかり落ち、夕食の匂いが部屋まで届いていた。
「で、私はその尚子さんの生まれ変わりなの?」
「どうかなぁ…時代で人も変わるからねぇ…」
そう言いつつも尚子と孫を重ねて見ることは幾度もあった。
「なんか"御話し"見たいなおじいちゃんの初恋物語だけど…憧れるなぁ」
羨ましそうな目で政太郎を見る。
「なんも良くないぞ。相手は死んでしまったんだからな」
「そうだけどさぁ…」
でもそんな切ない恋もしてみたいと思うのが乙女心である。
「尚子!おじいちゃん!ご飯よ!」
母の呼ぶ声がした。
「さて、晩御飯だから今日はおしまいだ。この匂いは…シチューかねぇ…寒い日は温かいご飯にかぎる」
年寄りはご飯となるとすぐ飛び付くんだからと呆れる。
「そうだ、尚子。お前今日宿題はどうした?」
なぜいきなりそれを振る。
「ご飯食べたらちゃんとやるよ」
尚子の答えを聞いて政太郎はよしよしと頭を撫でる。
食卓には今朝とは違い温かい母の笑顔とおいしそうな食事がならんでいた。
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